(1)彼女の話

 彼と知り合ったのは2年前の夏、友達と花火大会に行った帰りに寄った行きつけの立ち飲みバーで飲んでる時に、マスターに久しぶりと声を掛けながら入って来たのが彼でした。最初は顔は凄く好みだったけど、少し軽薄な感じがしたので早々に切り上げて帰ろうとしたのですが、頭の回転が早いのか会話のリズムが非常に心地良く、ついつい引き込まれてしまい、酔いも手伝ってその日の内に彼と一夜を共にしてしまい後悔しましたが、お互いが住んでる家が近い事もあり、自然と遊ぶ機会も増え、それと同時に彼の優しさや実直さに惹かれ始め、何時しか一緒に居る事が当たり前のようになった頃、私のアパートの更新月になったのをきっかけに彼が一緒に暮さないかと言ってくれたので、思いきって同棲をする事にしたのです。


私は愛されてる実感がないと不安になってしまうくせに、素直にその気持ちを話す事が出来ない面倒な性格なのですが、彼は外国の恋愛映画に出てくるような人で、毎日のように私に愛してると囁き、毎日のように私を求めてくれ、休日になると色んな所に出掛け、色々な思い出を作り、お互いの両親にも会わせ、今までの人生で一番充実した時間を過ごせたように思えました。


しかし、その幸せも長くは続きませんでした。


同棲を始めた頃は共働きなので家事は分担しようと決めてたのに、1年も経つ頃には仕事が忙しくて疲れてるからと家事を私に押し付け、その癖自分はソファーに寝転がりながらコソコソと携帯で何かをやるようになりました。今思い返してみると、恐らくこの時既に他に女が居て、連絡を取り合ってたのかもしれません。疲れているからと会話も程ほどに愛を囁く事も無く早々に寝てしまうし、勿論夜の営みも全くありません。愛されていないのかな、毎日が不安の連続でした。


そんな時、会社の忘年会があり、今まで会話した事の無い違う部署のK君と話す機会があり、お酒の力もあって初めて話したのにも拘らずついつい彼の愚痴を零してしまったら、K君も私と同じで愛されてる実感がないと不安になってしまう性格のようで、彼の愚痴で意気投合し一次会終わる間際に連絡先を交換して彼との事について何時でも相談してねと言ってくれたのが嬉しくて、それと同時に今まで抑えてきた不安が爆発してしまい、思わず涙が出てしまいました。すぐに涙を拭いたのですがK君には気付かれてしまい、気にしないでと取り繕って次に二次会に行く準備をしていたら、周りに見えない位置でそっと手を握られて


「俺達は似た者同士だから、多分君の一番の理解者になれるよ」


と言われ、全身を貫かれるような衝撃に襲われました。何故なら私も同じ様に思ってたからです。私達はそのまま二次会に行かずそっと抜けて、その日に愛し合いました。今までの私がしてきた行為は何だったのだろうと思うほどK君との営みは快感で、心も隅々まで満たされました。正直、彼との行為は物足りなく何時も何回も求めてしまってましたが、K君とは一度だけで全身の力が抜けてしまい立てなくなるほどでした。K君もそれは同じだったようで、そのまま二人して朝まで寝てしまいました。


ただ私はまだ彼と同棲中で、これはれっきとした浮気であり、私のした事は最低なことなのは理解してます。それでも私を一番理解してくれるのは彼じゃなくK君だ、そう思うようになってからはもう気持ちが止まりませんでした。幸い彼も他の女とのやり取りで忙しいのか携帯に夢中で、私の事なんて気にもしてなかったので、毎週会っては愛し合う日々を過ごしてたのですが、K君も彼と別れて一緒に暮らそうと言ってくれたので、このままではいけないと思い覚悟を決めて彼に別れを告げようと家に帰ったら、彼の方から別れを切り出してきました。きっと、彼も私と同じ様に新しい子と幸せになる道を選んだんだろうなと、同じ日に同じ決意をするなんてやっぱり恋人だったんだなと、何とも言えない複雑な気持ちになりました。今までありがとう、貴方と過ごした2年はとても大切な日々でした。お互いに幸せになって、いつかまた最初に出会った時のように笑い合えたらなと思います。



その日まで、さようならS君。